少し未来の問題

小説を書きました。

少し未来の問題を取り上げたSFちっくなお話です。

この物語は終わると思ってなくて、世界観考えて満足するやつです。救いは、各々が考えてください。続き、書いてみてもぱっとしなかったので、途中で切ってます。

 

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 AIが世界中の仕事を奪うだろうと言われ始めてから数10年が経った。答え合わせをしてみると、AIが仕事を奪うことはなく、共に仕事をする仲間として認識された。AIと言えば、万能の産物であると過去の人々は思っていたが、我々人類と同様にAIも学ばなければ何かすることは出来ない。
だから、人類はAIと共に歩むことを選んだ。少なくとも――今の所は。

「おはよ」
「オハヨウゴザイマス」
少子化問題をまともに解決しようと踏み込んだ政治家が現れたのが5年前。都心から少し離れた某所を教育特化区画として政令され、ここでの教育については政府から保証されている。結婚なんて時代遅れだと言われる世の中だけども、結婚して、子供を生むという人は少しずつ増えていた。結局の所、純粋な日本人なんて減り始めているのは確かだけども。
それで、この教育特化区画では条件があって、義務教育期間の間、専属のAIと共に過ごすというものだ。通称「バディプログラム」基礎となる所は全て同じAIなのだが、その子供と共に成長して行き、より適正な教育方針を示してくれる。実は、少子化問題に解決へと道筋を選んだ政治家が主権を取れたのも、これのせいらしい。国内で作られたものではなく、海外の天才が作ったものだと。詳しくは、あんまり興味ないから知らない。
そういうわけで、そのバディプログラムが適用された最初の対象学年だった私は、小学五年生。毎月宿題の一貫として出されるアンケートは、大人の顔色を伺いながら書いている。
「アンケートガ送信サレマシタ」
透明な声が部屋に響き渡る。私は、AIの入った端末をランドセルにしまってから、背負い、学校へと向かおうとする。廊下に出ると、母親に引き止められた。
「学校行くの?」
「……うん」
「もう学校に行かなくても良いって連絡が来たんだけども」
「でも行きたいの」
「そう……でも、クラスに誰も居ないんでしょ?」
「……そうだけど、学校が好きなの」
「別に違反じゃないのよね?」
「先生に聞いたら違反じゃないって言ってた」
「それなら良いわ。条件から違反したら、ここに居られなくなるし……お母さん心配で」
「うん、ごめんなさい、わがまま言って」
「ううん、いってらっしゃい」
そう言うと母は消えた。母は起きてない、ARごしに見える母が居ただけだ。母は部屋で今も横になっていた。母からはVR、私からはARでコミュニケーションを取っただけだった。
ARっていうのは拡張現実って言われるものらしくて、小学三年生の時に支給されたコンタクトレンズをつけると、つけてない時に見えなかったものが見えるようになるというもの。開発した人はノーベル賞を取ったんだけど、まだ普及はしていなくて試験的に私達が先行して体験しているらしい。何でもかんでも、最先端を体験させてくれるんだけど、実験動物になってる気分になる。
母が寝ながら経験しているのはVR。仮想現実の世界と現実の世界は繋がっていて、母の姿、所謂アバターの姿はARごしに見ることが出来る。父も、このVRを使って自宅から出勤して、働いている。

重い扉を押しのけて、外に出ると太陽が眩しかった。マンションのエレベーターを待つ。もう慣れたものだったが、とても静かだ。エレベーターはすぐにやってきた、ドアにセンサーがついていてすぐに到着するようになってるそう。このマンションに住んでいる人は、バディプログラムの対象者しか居なく、この辺りの資金源は全て国……とか、海外からのお金らしい。
どうして私がここまで詳しいのかと言うと、父が嫌でも教えてくるからだ。父はバディプログラムの一部開発責任者だって言ってた。だから、私が最初の実験に参加するようになったらしい。未来だ、未来だ言われても、私にとっては現代なんだけどなと思う。
エレベーターから降りて、エントランスから出ると、やっぱり静かな町並みだった。住んでいる人が殆ど政府の管理下であるらしく、犯罪も著しく低い。道路なんて歩いているのは私だけ、まるでこの街全体が死んでいるかのように思える。

実際死んでいるのかもしれない。皆仕事は家で行い、出勤・通学している人は居ない。これが「異常」だということに気づいたのは小学四年生の時。過去のコンテンツを漁っている時に見つけた、平成の映像からだった。人はもっと街に居たらしい。
まぁ異常だと言われても、私にはこれが現実なので、これが正常だ。
誰とも話さないまま、学校につくと、自動的に学校のネットワークに繋がり、同級生をARごしに見ることになる。話しかけられては、適度に挨拶を返す。AR側の子達は私が本当に学校へ行っていることが分からない。あっち側から見えている私はアバターの姿だからだ。
きっとこのコンタクトレンズを外すと、殺風景な教室が見えるだろう。ただ、コンタクトレンズを外すとネットワークからも遮断されてしまうので、何か異常があったのだろうと自動的に親に連絡が行くようになっている。それが少し厄介。
「……厄介、だなぁ」
授業が始まると、先生が現れる。不思議なことに、この先生実際に言っていることは「各生徒ごとに違うこと」を言っている。だが、まるで「皆が同じことを聞いているかのような錯覚」を覚えるくらい、自然に授業が進んでいく。これも同じで、これが最初からだった私達にはこれが当たり前すぎた。
板書を進めつつ、空を眺めると、雲が流れていく。これは本当の雲、ホログラムにする必要が無いから置き換えがされない。仮想側は、天気予報からエミュレートされた空。言ってしまえば、現実側と変わらない空。つまり、私と同じものを見ていることになる。大本は同じなんだから、同じじゃんと言われればそうかもしれないけど、私はこっちのほうが好き。
「……何か見えるの?」
「ううん」
隣の席の子が話しかけてくる。幼馴染のチアキ
「リア、最近調子悪そうだから心配」
「大丈夫だよ、ごめん、心配かけて」
「ううん、気にしすぎかもしれないし」
最後に私は笑顔で返すと、チアキは前を向いて授業を聞くようになった。さっきも言ったけど、チアキはこの場には居ないが、居る。コンタクトをつけてない人、またはネットワークに繋がってない人がこの光景を見たら、私が虚空に対して話しかけているように見えるだけ。でも、それが当たり前。ずっとそうやって生きてきたから。
「実体か」
私は自分の肌に触れる。触れる指先と、触れられている肌を感じることが出来る。残念ながら、VRだとそこまで技術は進歩していないようだった。そもそも、あんまり必要のないものだと思われているようだ。……大人の人は使っているって聞いたことがあるけども。

休み時間、私は端末を眺めて、ニュースを見る。またAIのアップデートが入るようだった。明日から授業のカリキュラムが変更になるかもしれない。
「ねぇねぇ、リア。アップデートが来るらしいよ」
「うん、今見てた所」
「時間割変わるのかなぁ」
「どうだろうね」
最適解のカリキュラムが作られるが、人によって様々で短く勉強する人も居れば、長く勉強する人も居るらしい。私は結構平均的とのこと。
「あー、そう言えばあのアーカイブ見たー?」
「どの?」
「現実側でやってたドローンのイルミネーションショーだよ。綺麗だったんだぁ」
「へぇ……現実側でやる意味あるのかな?」
「うーん、どうなんだろうね?技術を見せる為だけの場だったから」
「そうなんだ」
「私達から見たら、無用の長物……?でも宅配が早くなるなら嬉しいかも?」
「そうだね」
そこでチャイムが鳴って、また先生が現れる。2時間目は社会だった。

放課後。私は荷物をまとめて、帰ることにする。ログアウトは「校門」で行われる。ログインもそうだ。現実側でもそれは同じ、学校のネットワークからのログアウトは校門で行われる。
「リア、帰るのー?」
「うん」
チアキが声をかけてくる。特に理由も無いけど、放課後は寄り道して帰る習慣があった。
「私、もうちょっとだけ勉強してから帰るね。今日はそういう気分なんだ」
「そっか、頑張ってね」
「うん、じゃあねー」
そう言われると、手を振ってから、教室を後にして、下駄箱へ向かう。その途中で、生徒指導の先生と目が合った。
「柳井、ちょっと来い」
「……はい」
嫌な予感は的中した。私は一瞬で分かった、この生徒指導の先生こと中村先生は現実側に居る。
「ネットワークを遮断……よし。はぁ……」
「なんですか」
「どうしてこっち側の学校に来るんだ」
「来たいからです、別に違反じゃありませんよね?」
「違反じゃないが、当校した生徒が居ると俺が学校に来ないといけなくなるから、面倒なんだよ」
「先生都合じゃないですか、頑張ってください」
「生意気な生徒だ……」
私には知ったこっちゃない。一応、登校した生徒に何かがあった時のためだと言う。5年生で登校しているのは、私だけ。去年まで一年生は必ず登校だったが、一年生すら4月いっぱいで自宅から登校になるシステムへと変わって行った。なので、私しか登校していない。
「柳井のお父さんは開発者だったっけな」
「お父さんに言うんですか?」
「言えるわけないだろう、お偉いさんだぞ。娘を優先するに決まってるし、俺に通勤しろって言うだけだろう」
「頑張ってください、それじゃあ」
「待てまて……」
引き止められる。鬱陶しい……。
「他の生徒にバレたらどうする」
「どうもしません」
「変に思われるんだぞ」
「思われても良いです……多分、チアキにはバレてるし」
「……はぁ。駄目か、仕方ない。これは最後に言いたかったんだがな、この学校、来月から閉鎖されるんだよ」
「……え?」
「自由に選べるようにしていたが、来年からは一年生も通うことなく、最初からあっち側からの登校になる。まだ内緒だぞ。だから、今からでも自宅登校に慣れてくれ」
「……はい」
ここで反論しても、話が長くなるだけだと思い素直に頷く。

帰宅して、ARな母に挨拶をしてから、部屋に籠もる。ベッドに寝っ転がって、一息つく。

私は、AIもARもVRも嫌いだ。平成の子どもたちが、もっと前の昭和の子どもたちが羨ましかった。とにかく、外に出たい。家の中に居るのが嫌なだけ。毎日毎日、部屋からも出られないのは監獄にいる囚人と何が違うのかと思ってしまう。大人たちは未来だって言うけど、そんな未来を今の子供は望んでいない……違う、望んでいるのかもしれない。望んでいないのは私だけ……?来月から学校へ行けなくなるのが嫌だった。嫌で嫌で、吐き気がした。母がタブレットを介して呼びかけているようだったが、無視をして寝たふりをする。どうせ、現実側には来ないんだから身体に干渉なんてされないだろう。スピーカーを落とし、コンタクトを外して、布団に潜り込んだ。

寝ているふりをしていたら、本当に寝てしまっていたなんて、少しバカみたいなことをした。起きると深夜で、母も父も眠っているだろう。コンタクトを外したのは、いつぶりだろうか。ずっとつけていたから、皮肉にも違和感に襲われている。仕方なくベッドから降りると、起きたことに反応したのかタブレットが光っていた。目をこすり、タブレットを見ると母からのメッセージが沢山。コンタクトを外したことに怒ったようだった。自分がVRを外すということをしないのかが謎だ。
そして、もう一つのメッセージ。AIからだった。
「アスハ、オヤスミデス」
つまり、学校を休めとのこと。母より、よっぽどこいつのほうが理解してくれている。故に……それが、とてつもなく気持ち悪かった。私の何もかもを知っているこいつが、憎い。たとえ、ここでタブレットを壊しても、こいつのデータが消えることはない。こいつが持っているデータは、私の知らない遠いデータセンターで管理されているから、いくら消してもバックアップがされていて、いつでも復元が出来てしまう。親が勝手に作り上げた理想が、私の中でとてつもない嫌悪感に浸されていた。

何度も何度も考えて、周りの皆はどうなのだろうと思った。そうして考えた答えが、私だけがきっとバグなのだろうと思った。

父から教わった。AIっていうのは人間と同じで物事を教えてあげないと優秀にならない。教え方を考えるのが一苦労だって。バディプログラムのデータは、今まで数十年間も蓄積された、数千万人もの義務教育を受けた生徒のデータを基に作られたもの。だから、そこに当てはまらない生徒だっている可能性はある。それが私、バグだ。
人間の承認欲求を餌に、AIは色々な方面から勉学についての魅力を見せてくる。中毒のように、勉強をするものもいれば、そこにまだ至らない生徒も居る。ただ、遅かれ早かれみんなその中毒に飲まれ、同じレベルでの知能を持った人間が出来ていく。小学生の私でも想像出来るんだから、大人はきっともっと色々な想像をしている。そこから生まれた平均的な知能を持った私達は、更にそのデータを使って、より良くして行く。私というバグも、きっとそこでデバッグされて解消される。

それが、きっと何十年、何百年も続いて、最適化された先の人間たちを想像すると……。
「う、ぷ……」
気持ち悪い。みんな同じ。大人たちは、それが理想だって言う。そんなの、理想じゃない……ただの、納得だ。
「一人で生きていけたらなぁ」
無理なのは分かっている、昔のアニメとかだと行けるかもしれないけど、こんなセキュリティだらけの街から出るなんて不可能だ。セキュリティを掻い潜る知識なんて、私には無い。
……私、には。

 

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 続きとか、思いついたら書きますが、今の所、私には悩める主人公であるリアを救う手立てが思い浮かびません。セキュリティって思っている以上に優秀です。ここまで全て電子化されていると、足がつくのが一瞬だと思います。

少しだけ、この世界観について考察しましょう。

AIと教育

相性が良いと思っています。バディプログラムは専属の家庭教師がついている感じです。そもそも、教育を全員同じように教えても進み方は異なるわけで、良し悪しが良いという話もありますが、良し悪しすらもエミュレート出来てしまえば良い話で。最初からそれに気づく子供もいると思いますが、そこに気づいたら大人になったと認識すれば良いだけなので、また対応を考えれば良いだけかと。

私達から見たらそれが「違和感」に見えますが「最初からそうだった」場合については、疑問を見出しません。現に私達は、小学校へ行って、指定された時間割に従い勉強する。他にやり方があることは知らずに、それが正しいものだと認識して勉強していたはずです。

まぁ、でも、リアみたいな子は生まれるよなとも思ってます。違和感が無いにしても、過去を見てきた子どもたちは違和感を覚える可能性はあります。歴史を学ぶ敷居がメチャクチャ低くなっているので、平成の当たり前を学んできた大人たちを見て反発する子供。

だけど、そういう子がものすごい発見するってのが物語の定石ですね。

ARとVR

ちょっとだけアンチテーゼな感じになりましたが、私は現に自宅で仕事してますし、多分理解が無い人から見たら引きこもりに見えるわけで。それで、全員がそうなった場合……っていう世界観でした。街から人は殆ど消える。初期では10年後だったのが、今回は数10年後にしました。何故かというと、外が好きだった大人が消えた世界だからです。まぁ、察してください。

アンチテーゼに見えるのは、リアからの主観で物語が進んでいるからです。そして、リアから見た主観だからこそ、他が狂気に見えるというものです。この物語の他の子から見た主観だったら、リアが異常に見えるというやつ。先生とかから見たらまさにね。

そして、それを見ている読者である私達は、リアが狂気には見えないんです。平成に憧れた子供だから、憧れの対象が私達であって、私達であるということは、私達の当たり前を取り戻そうとしているから、正義に見えるやつです。子供が老害ってちょっとだけ面白いなと思います。

 

書いていて、やっぱりリアを救う手立てがありません。タイムマシンでも登場させて、平成に飛ばして成長させてほうが幸せなんじゃないかなと思います。あ、それ面白いですね、教育を受けたい時代を選べるというのも。

教育って難しいです。正解が無いからだと思ってます。どれだけ答えを求めて、それが正解だとしても数年後には不正解になってたりするのかなって。

それは時代の常識が変わっているから。だから、さっさとAIにまかせて、加速させればいいのにな、なんて。

 

おしまい。