朗読用フリーテキスト②「音楽と魔王」

どんどん書こう、2本目です。

前回ぼかしたのに対して、今回ははっきりさせました。魔王と家臣の話です。

掲載元は提示してくれると嬉しいです、必須ではありません。

著作権は破棄していません、自作宣言は勘弁してください。

 

我が主が音楽に熱中してから1ヶ月が経とうとしていた。

「聴け大臣、新曲だ」

「はい」

大きな手の中に収まった、人間が作ったと言われる旧式の音楽再生機器。自身の耳に当てて聴く。我が主いわく、バラードに挑戦したとのこと。甘いメロディが我の脳を溶かすようだった。不思議と、不快ではない。

「どうだ、大臣」

「素晴らしいバラードでした、魔王様」

「うむ。こういうしっとりした曲も中々に良いものだ」

満足そうにする我が主。マントをはためかせ、自室へ戻っていく。どうやらまた曲作りに熱中するそうだ。

「……ふむ」

勇者はまだ現れない。我が主が先代の勇者を討伐してから300年の月日が経った。世界を制圧した我が主は、退屈に押しつぶされかけていたのだ。そこで、下級の魔物達が好んでいたという音楽を耳にし、我が主自らが作曲に熱中したのである。

我が主の右腕である私はというと、作曲には興味を持つことは出来なかった。自身で作らずとも、我が主が毎日のように聴かせてくる。それで十分だったのだ。

それに、私も暇ではない。もちろん、我が主も暇ではないのだが、私は魔物たちからの報告や、伝達なども行っているため、まとまった時間を取ることが出来ないのである。

「そろそろ時間か」

世界制圧後のほうが忙しいもの。しかし、これは……嬉しい悲鳴なのであろう。

 

翌日、そろそろ我が主が作曲を終え、新曲を持ってくる時間。私はいつものように構えるが……我が主が姿を見せることはなかった。

「……む?」

妙だと思い、私は我が主の部屋へ伺うことにした。無意識ではあったが、急ぎ足になっていた。どうやら私は我が主の新曲を楽しみにしているようだった。

そうして、もう一つ。変な想像をしてしまう。もし、最初に聴くのが私ではなく……他の家臣だったら、と。想像した上で笑ってしまう、どうやら一番は私でなければ行けないと私の中にある無意識はそう思い込んでいるようだ。

こぼれた笑みを、そっと直し、我が主の部屋の前に立ち、呼びかける。

「我が主、いらっしゃいますか」

「……うむ、入れ」

覇気の無い声。いつもの威厳が感じられずにいた。私は部屋に入ると、仰向けになりながら横になる我が主を見つけた。

「我が主、どうされましたか」

「スランプだ」

「スランプ、でありますか」

どうやら新曲は無いらしい。私の中で何かが崩れる音がした。

「昨日まで楽しかったのだがな、今日は全く思いつかぬ。興ざめだ、短くはあったが暇つぶしにはなったな」

「では、もう……?」

「うむ。すまなかったな、大臣」

違う、そうではない。欲しいのは、謝罪ではなく……新曲だ。我が主の曲の無い明日など……私は迎えたくなかった。スランプならば、いずれ抜け出せる。だが……私は家臣、我が主に意見など。

「……どうした?大臣よ」

「いえ、その」

「勇者でも現れたか?」

「現れてはおりません」

「では、どうしたというのだ」

「……なんでもありません」

「今この時、私に意見することを許可する」

この時私は気づいた。またも無意識的に、私は意見を出したいという願望がにじみ出てしまったのだ。隠せるはずが無い、何億もの魔物を従わせ、世界を制圧したカリスマ性のある我が主になど……。

「……我が主、どうか。新曲を……」

「む、はっはっは!大臣、貴様……はっは!!そのような表情初めて見たぞ。分かった、毎日とはいかぬが、作曲は続けよう。大臣が望むのであればな」

「恐縮にございます……」

「しかし、それならばもっとはよう言わんか。てっきり、渋々聞いているものだと思ったぞ」

「申し訳ございません……」

 「良い。単純なものよの、聞きたいという者が居るというだけで、作る気力が湧いてきたぞ」

「我が主……!」

「明日、楽しみにしているが良い」

我が主の作曲活動は続く。勇者が現れる、その日まで。