朗読用フリーテキスト③「屋上の先輩」
どんどん書こう、3本目です。
掲載元は提示してくれると嬉しいです、必須ではありません。読んだか教えて頂ければ、私の腕が上がります。
著作権は破棄していません、自作宣言は勘弁してください。
今回は物語のプロローグ感を出してみました。この二人の関係、どっかでまた書くかもしれないっす。
僕:男
友達:男
先輩:女
高校生になったら憧れていたことがあった。それは屋上でお昼ご飯を取ることだ。アニメや漫画でよく描画されていて、青春の代名詞だと思っている。クラスの連中とも顔見知りになり、徐々に見えてくるカーストを感じて来る5月下旬。春と梅雨の間であるこの時期が丁度よいと考えた僕は、お昼休みに勇気を出して屋上へ行くことにした。
「あれ?今日は購買?」
「え、あ、うん」
初めて友達になったあいつには悪いが、教室で飯を食うのは昨日で最後だ。まぁ、上手く行ったら今度あいつも誘ってみようかな。
高鳴る鼓動を感じつつも、階段を登って行く。屋上から見る景色は、どんな景色なんだろうか。重くて冷たそうな鉄のドア。ドアノブに手をかける。
「……あれ?」
現実はつまらない。理想通りには行かない。扉には鍵がかかっていた。
「ちぇ……」
僕は誰かに見られたらマズイと思い、急ぎ足で教室に戻る。途中購買部に寄って、パンを買い、友達に聞かれてもないのに遅くなった理由を述べて、昨日と同じ日々がまた始まっていた。
帰宅すると、バイトもしていない僕はベッドに横になって、昨日読みかけだった小説を読み始めた。物語の方が現実より面白い。現実は、どうしてこうも面白いことが起きないのだろうと、考え込んでしまう。せめて、屋上に行くくらい、簡単な願いなのだから叶ったって良いではないか。
それから数ヶ月して、梅雨があけた夏。僕はいつものようにお昼を過ごす予定だったが、どうにも家にお昼ご飯を忘れてきたらしい。仕方なく、お小遣いからお昼ご飯を買いに行くことにする。購買部は一年生の教室からだと遠く、しんどい。貴重なお昼休みが短くなるので、僕は殆ど使っていなかった。混む前になんとか買いたいと急ぎ足で向かう。
そこで、僕は初めて購買部を使ってよかったと思う瞬間を迎えた。購買部へと向かう外廊下で見える、屋上に見える人影。夏の陽炎だと疑ったが、少しでも可能性があるならと思い、僕は階段を駆け上がり、現実を突きつけてきた鉄のドアまでやってきた。
唾を飲み込み、恐る恐る手をかけてドアノブに手をかける、手応えは……あった!
思い切り開くと、そこには一人の女性が立っていた。
「なんだ、生徒か」
「あの……ここって、お昼休みに来れるんですか?」
「来れないよ?」
「じゃあ、どうして開いて……」
「鍵、作ったから」
どこからツッコめば良いのか分からなかった。つけているリボンの色からして、一つ上の先輩だろう。
「屋上好きなだけ」
「怒られないんですか?」
「怒られるよ、鍵も10回くらい没収された」
「どうしてそこまで……」
「じゃあ君はどうして、ここに?」
「……屋上が憧れだったから」
「同じだよ、私も憧れだった。君と同じ、似てんね」
先輩は笑顔になる。最初は怖そうだなと思ったが、同じ趣味であると分かった瞬間に空気が変わったような感じがした。
「先生もそろそろ諦めたんじゃないかな。どうする?君も怒られる?」
「いや、僕は……」
「あー、その程度か。憧れって言っても」
「……来ます、僕も!毎日!」
「別に良いけど、話すのは今日だけだよ?私ここの日陰で寝てるだけだし」
暑くないのだろうか……いや、でも、風が吹いていて気持ちは良い。快適ではないが、嫌な感じはしない場所だった。
それから僕は毎日屋上に通った。先生にも何度も怒られたけど、僕は通い続けた。雨が降った時は、先輩と2人でドアの前で一緒にご飯を食べていた。別に会話なんてしない、お互い持っているスマートフォンでゲームやSNSをやるだけ。
現実は案外面白かった。先輩との不思議な関係は心地よいし、なんだかんだで毎日が楽しい。まるで思い描いていた小説のような現実。
そうして僕は気づいた。憧れていたのは、屋上ではなく……こうした、生活だったのだと。